三日後、スマントラは悲しい気持ちでアヨーディヤーに戻りました。すぐにダシャラタ王に会いに行くと、王は死人のようなありさまでした。王にとって、ラーマとの別離はあまりに耐えがたいものでした。王はただひたすら、「ラーマ、ラーマ、ラーマ……」と言うばかりでした。スマントラは王の悲痛な声が身にしみました。そしてその夜、ダシャラタ王は肉体を去りました。
これらのことが起こった背景には、ある理由がありました。それは、次のような過去の出来事でした。昔、ダシャラタが森へ狩りに行った時のことです。小川のほとりに近づいたとき、ある物音が聞こえてきました。ダシャラタは何か野生の動物が水を飲んでいるのだと思いました。この音を聞くや、ダシャラタは音のする方向へと矢を放ちました。矢は青年シュラヴァナ・クマールに命中しました。シュラバナは年老いた盲目の両親のために、小川に水を汲みに来ていたのです。両親にとって息子シュラヴァナは唯一の支えであり、カヴァディ(両端に籠のついた竹竿)で両親をかついであらゆる巡礼地へと連れて歩いていました。ダシャラタは、この年老いた両親のたった一人の息子を自分が死なせてしまったことを悲しみ、打ちひしがれました。シュラヴァナ・クマールは息を引き取る前、年老いた両親のもとへ水を運んでくれるようダシャラタに頼みました。ダシャラタが年老いた両親に息子の悲劇的な死を告げると、二人は癒しがたい悲しみに打ちのめされ、ダシャラタも同じように息子との別離によって悲劇的な死を遂げるであろう、と呪いの言葉を吐きました。こうしてダシャラタが過去に起こした行為の結果として、今度はダシャラタ自身に息子との悲しい別れが引き寄せられたのです。気高い魂によってかけられた呪いが、くつがえされることはありませんでした。
ダシャラタ王の遺体は油の中に入れられ、保存されました。ケーカヤ国からバラタを呼び戻すため、ヴァシシュタ仙は使者をケーカヤ国に送りました。使者たちは、アヨーディヤーに戻るまではバラタに何も知らせないよう命じられていました。バラタはシャトルグナと一緒に直ちにアヨーディヤーへ帰りました。
二人がアヨーディヤーに戻ったとき、バラタは都が妙に静まり返っていることを不思議に思いました。バラタは真っ先に王の宮殿に行きましたが、父王に会えませんでした。彼は母カイケーイーのもとへ急ぎ、「父上はどこですか」と叫びました。カイケーイーは、「息子よ、父上は神々のもとに行ってしまわれました」と答えるやいなや、「それは父上が亡くなられたということですか」とバラタがたずねると、カイケーイーはうなずきました。バラタは父ダシャラタの死を知り、立ちすくみました。「父上の死をなぜもっと早く知らせてくれなかったのですか。ラーマ兄さんはどこですか」バラタがこう尋ねると、カイケーイーは、「父上の最後の言葉はラーマでした」と答えました。バラタは驚きながら、「ラーマ兄さんは父上の臨終のとき、そばにおいでにならなかったのですか」とたずねました。カイケーイーは、「息子よ、ラーマは十四年間森で暮らすためにこの都を離れました」とバラタに告げ、ことの次第をすべて打ち明けました。バラタは自分の耳を疑いました。この災いが母カイケーイーによって引き起こされたことを知り、バラタは恥ずかしさと怒りから、母カイケーイーをにらみつけました。そして母にきつくこう言いました。「父上を苦しめ、兄上を追放するような残酷なことがなぜできたのですか。私がどんなにラーマを愛しているか、あなたは知らなかったのですか」母カイケーイーは懸命にバラタの理解を得ようとしました。しかし、どうしてもバラタの怒りはおさまりませんでした。バラタは怒りで目を真っ赤にして、こう言いました。「なぜ母上は、私の父上のお命を奪い、ラーマを追放してしまったのですか。どうしてそんな酷いことができたのですか。兄上はいつも徳を磨くことに努め、あなたを実の母のように慕っておられたものを。こんな非道なことをやってのけて、母上にどんな得があるというのですか。私がどんなにラーマを愛し尊敬しているか、ご存知なかったのですか。兄上がこの世に生きていらっしゃるのに、私がこの王国を統治するとでもお思いなのですか。由緒正しいわが家門では、長子が統治し、年下の弟妹が従う慣わしが守られてきました。母上は王家の生まれでありながら、王たるものの義務を解することもなく、王宮の約束事をご存知ない。母上、あなたはこの王国の栄光も名誉も屈辱にまみれさせてしまわれた。あなたの罪深いはかりごとを私が遂行するとでも思っておられるのですか。私は森から兄上を連れ戻し、私の一生をかけて誠心誠意兄上にお仕えします」こう言うと、バラタはラーマの産みの親カウサリヤーの部屋へと走って行きました。カイケーイーは、バラタがこのように言い残して自分のもとを去って行ったとき、やっと自分が犯した過ちの重大さに気づいたのでした。カイケーイーは大変学識のある知識人であったにもかかわらず、召し使いのマンターラに自分の判断を支配させ、マンターラの助言の言いなりになって自分の一生を悲惨なものにしてしまいました。
第一王妃カウサリヤーの部屋にはスミトラーが来ていて、カウサリヤーを慰めていました。悲しみに包まれたカウサリヤーは、小さな声でこう言いました。「バラタ、王国があなたを待っています。わたくしもスミトラーもあなたが王国を統治することに反対ではありません。ラーマのためにも王国を立派に治めてください」第一王妃カウサリヤーの言葉を聞いて、バラタの顔に涙が流れ落ちました。彼はカウサリヤーの足元にひれ伏し、その足にすがってすすり泣きました。「母上、私がラーマをどんなに愛しているかご存知のはずです。私は兄上が座すべき王位に就くことはできません」そう言って、バラタはラーマをアヨーディヤーに連れ戻すことを、カウサリヤーに約束しました。しかし、ラーマの母カウサリヤーはバラタを慰めながら、これはラーマが決断したことであり、母カイケーイーを責めてはならない、とバラタを諭しました。
バラタは一日中ラーマのことを想い、彼の心は乱れ苦しみました。どのようにして兄を連れ戻そうかと考え、ヴァシシュタ仙に助言を求めました。すると、ヴァシシュタ仙はダシャラタ王の葬儀をこれ以上遅らせることはできないと言いました。バラタをなだめ、父上の最後の儀式を行うのは、そなたのなすべき務めなのだと言い聞かせました。バラタはラーマを王国に連れ戻す前に父ダシャラタの葬儀を行わなければなりませんでした。バラタは儀式に則って、火葬の薪に火をつけ、十五日間油の中に浸けられていたダシャラタ王の遺体を弔う儀式を行いました。
カイケーイー妃は息子バラタをアヨーディヤーの王位に就かせたがりましたが、バラタは一度もそのような願いを抱いたことはありませんでした。父ダシャラタの葬儀を終えた後、バラタはラーマを探しに行こうと決心しました。