9.ラーマの旅立ち

木の皮の服をまとったラーマとシーターとラクシュマナの三人は、馬車のある場所まで歩きました。そこにはたくさんの人々が集まってきていました。ラーマは王国の人々に向かってこう言いました。「アヨーディヤーの人々よ、私のことを思ってくれるなら、私に示しているその敬愛の念を弟バラタに示してやってください。バラタは立派な人格の持ち主です。あなたがたの国を必ず立派に治めてくれるでしょう。弟バラタと父ダシャラタの仰せに従い、あなたがたの徳を高めることを忘れないでください」そのように言い終えると、父ダシャラタに近づき、心からの尊敬を込めて父王を祝福し、森へ向かう馬車に乗り込みました。

父ダシャラタは嗚咽しながら、「おおラーマ、行ってしまうのか。もうしばらくここに留まっておくれ。おまえを止めることはできないとわかっているが、おまえの美しい姿をしばしのあいだ見ていたいのだ。しかし、もうこれ以上おまえを引き留めることはできないというのかー」と涙を流しながら馬車を見送りました。アヨーディヤーの人々も、大声で泣きながら馬車を追いかけました。老いも若きも馬車のあとを追って、走りながらラーマの御名を呼び続けました。馬車が都の大門を通過したあとも、大勢の人々が追ってきて馬車のわきを駆けながら涙を流して、ラーマ王子に都に戻るよう懇願しました。アヨーディヤーの人々はどこまでも追いかけてくるのです。三人を乗せた馬車は、その日の夜遅くにタマサー河の川岸に到着しました。すると、しばらくして人々もまた追いつきました。ラーマはここで一晩を過ごすことにしました。ラーマはタマサー河のほとりに集まった都の人々に近づき、バジャン(神をたたえる歌)を皆とともに歌いました。人々はしだいに神への想いが深まり、幸せな気分に浸りながらラーマを見つめるのでした。

ラーマは霊性のメッセージを広めるという自らの使命を果たすために、この先十四年もの間、再会できない王国の人々に向かって言いました。
「アヨーディヤーの人々よ、わたしは森に行って自分の義務を果たさなければならない。父ダシャラタに代わって、これからは弟バラタが王国と国民のために力を尽くします。どうか社会生活での必要な義務と霊性の学びを両立させ、いつもダルマの道を守るようにしてください。人間の本質である神性アートマについての学びを深めていくならば、すべての人が神の子であり、すべての人が兄弟姉妹であるという事実を認識できるようになるでしょう。だから誰に対しても、悪意や嫌悪を抱いてはなりません。誰の気持ちも傷つけてはなりません。人を敬愛すれば、それはすべての人に内在する神アートマに必ず届きます。皆さんが人生において成功を収めるのを助けてくれるものは、愛(プレーマ)のみです。あなたがたの思いと行いの根底に愛がなければ、神を動かすことなどできません。愛はあなた方の人生を救うだけではなく、あなた方の周りのすべての人の幸福を増やします。祈りを通して、私たちは愛の種をまくことができるのです」

そしてその夜、ラーマは人々とともに、神を讃える歌(バジャン)を歌い、祈りと瞑想を神に捧げました。翌朝まだ暗いうちにラーマが目を覚ますと、ラーマを追いかけてきたアヨーディヤーの人々は、悲しみと疲れとでまだぐっすり眠っていました。ラーマは「さぁー、みんなが目を覚まさないうちに出発しよう」と大臣スマントラに声をかけました。ラーマとシーター、ラクシュマナの三人はスマントラが走らせる馬車で出発し、一日かけて聖ガンジス河の堤に到着しました。夜が完全に明けて、ラーマがすでに遠く離れた森へと向かったことを知った都の人々は、泣く泣くアヨーディヤーへと戻る決心をしました。人々は自分たちのハートの中に、ラーマが「アートマラーマ」として内在していることを信じ、ラーマを想いながら都へと引き返して行きました。

ラーマをはじめとする四人が一本の木陰で休んでいると、低いカーストの部族の首長であったグハが訪ねてきました。彼はラーマが森に追放されたことをとても残念に思っていました。ラーマへの信愛を深めていたグハは、ラーマにこう切り出しました。「どうかここにずっと滞在してください。私の国も私の富もすべてあなた様に差し上げます」グハには、すべてを犠牲にしてラーマのために尽くすという覚悟がありました。ラーマは彼の友愛に感謝して、こう言いました。「友よ、あなたの友愛がどんなに深いものか、わたしにはよくわかります。でもわたしは、森で隠者の生活をおくる約束をしました。約束を果たすためには、どんなことも苦ではありません。明日、河を渡って森に入ります」

翌早朝、祈りと瞑想を終えたラーマとシーター、ラクシュマナの三人はグハが用意してくれた舟の船着き場まで行きました。ラーマはスマントラに、「アヨーディヤーに帰って、父を慰めてください」と頼み、スマントラとグハの二人に別れの挨拶をして舟に乗り込みました。スマントラとグハは目に涙をため、むせび泣きながら三人を見送りました。

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